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校長先生のお話

2011年10月31日のお知らせ

死者の日を前に

 明日から11月です。11月2日はカトリック教会では「死者の日」とされていて、死について、あるいは死者について思いを馳せようという日になっています。 君たちもこの機会に「死ぬ」ということから自分の命を考えてみてはどうでしょうか。

これは中1の宗教の授業で話したことですが、先週、私は阿南里恵さんという方の体験談を聞く機会がありました。 彼女は今年30歳になる方で、21歳のときに子宮頚がんになり、子宮を摘出しました。 手術は成功しましたが、再発の恐れがある。定期的に検診をしてもらい、5年間再発しなければ完治したとみなされるそうです。 でも、再発すればそれは他の場所に転移したということなので命にかかわる重大なことになります。 阿南さんはまだ若いのに死の恐れを常にかかえながら生きることになったのです。 また、たとえ完治したとしても、20代では仕事をバリバリやり、30代で子育てを一生懸命やろうと考えていた人生設計が根底から崩されてしまったわけですから、そのショックは想像もつかないほど大きかったことと思います。

気持ちの整理がつかず、阿南さんは手術の前に家出をしましたが、そのときお母さんから長いメールが来ました。 つらいだろうけれど、生きているだけで儲けものです、お母さんはあなたに生きていてほしい……。 このとき、阿南さんは命というものは自分だけのものではない、これまで生きてこられたのも自分だけの努力ではない、ということが分かったそうです。

幸い5年たっても再発せず、がんは完治しました。 このつらい貴重な経験を通して、阿南さんは、これからは他の人たちにお世話になって生きてきたことのお礼として周りの人たちに恩返しのできる仕事をしたいと考え、子宮頸がんの啓発活動に携わるとともに、中学・高校・大学でがんをテーマにした命の授業を行っておられます。 大変明るく積極的に取り組まれ、テレビにも出るなどとてもいい仕事をされています。 実は、がんが見つかったころ、お母さんとの仲は十代の反抗期の後遺症を引きずっていてあまり良くなかったそうですが、がんと向き合った結果、現在は昔のように仲の良い母娘に戻っています。

人間いつかは死ぬということは誰でも知っていますが、それを遠い将来のこととして実感なく捉えるのではなく、もっと身近な現実のものとして「死」を意識してみると、命の尊さ、大切さに気づき、自分の生き方についてもずいぶん違った世界が見えてくるのではないでしょうか。

 11月の「死者の日」や「生命について考える日」や3月11日の東日本大震災の起こった日など、折に触れてで結構ですから、ぜひ死について考えてみてほしいと思います。