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校長先生のお話

2012年09月24日のお知らせ

9.11アメリカ同時多発テロ事件

 今日の話は“9.11アメリカ同時多発テロ事件”についてです。2週間前に話す予定でしたが、雨で流れたので今日に持ち越しました。

 アメリカ同時多発テロ事件とは、11年前の9月11日、ウサマ・ビンラーディンをリーダーとするテロ組織アルカーイダのメンバーが4機の航空機をハイジャックして、ニューヨークのワールド・トレード・センターや国防総省(ペンタゴン)の建物などに突入して3000人近い人が犠牲になった事件のことです。

 特にワールド・トレード・センターはニューヨークのマンハッタンにあります。マンハッタンは見上げるような超高層ビルが林立する地区で、アメリカの富と力の象徴のような場所です。それら超高層ビルの中でもワールド・トレード・センターはひときわ高いツインタワーで、そこに航空機が突っ込んだわけです。

 ブッシュ大統領は小学校を視察中でフロリダにいましたが、事故のニュースを聞いたときは相当なショックを受けていました。また、アメリカ国民にとっても自分たちの繁栄と力の象徴のような場所が攻撃され破壊されたことは大きなショックで、国内ではテロの実行犯がアラブ系だということで、国内のアラブ系の人やイスラム教徒に対して敵対感情を持つ人々が出て、アラブ系の人びとは嫌がらせにあったり、職を失うこともあったり、また暴力をふるわれたりしました。

 国連は9月12日にテロ非難決議を採択します。このテロ行為に対してはアラブ諸国からも非難の声が上がっています。

 この後、アメリカは非常事態宣言を出し、アルカーイダのリーダー、ウサマ・ビンラーディンを首謀者と断定して、アフガニスタンのタリバーン政府に引き渡しを要求します。タリバーン政府は証拠がないとして引き渡しを拒否、これを受けてアメリカはアフガニスタンを攻撃し、この結果タリバーン政権は崩壊しましたが、ビンラーディンらを捕捉することはできませんでした。

 さらにアメリカはこの後、イラクに対し、大量破壊兵器を隠し持っているとして、テロを予防するためのイラク戦争を開始し、サダム・フセイン独裁政権を倒します。しかし、肝心の大量破壊兵器は見つかりませんでした。実は開戦前から大量破壊兵器は出てこないのではないかと言われていて、つまり確たる理由はなく戦争を起こしていったのがイラク戦争だったということです。

 イラク戦争からその後のアメリカ軍のイラク駐留の期間に実に多くの無辜の市民の血が流れ、イラクの人だけでなくアラブ諸国の人びとのアメリカに対する怒り・憎悪は増幅されました。

 テロは許すことはできないし、アメリカの人の怒りも分かりますが、だからといってテロリストがアラブ系だったから、イスラム教徒だったからと言って短絡的にアラブ系の人やイスラム教徒をテロリストと同一視して排撃するのは明らかに行き過ぎた行為で間違っています。また国家による予防のための戦争は互いに憎悪を増幅させ、報復の連鎖を生み出すだけに終わります。

 このような一連の経緯を見ると、人間は憎みあうことしかできないのだろうかという暗澹たる気持ちになりますが、本当に報復の連鎖は止めることはできないのでしょうか?

 私はそのようなことはないと信じたいと思います。

 同時多発テロ事件の直後、ワールド・トレード・センターの最上階のレストランでソムリエとして働いていた人の妻がテレビの取材に対して、次のように答えたという話を紹介しましょう。彼女は、死んだ夫がアメリカ国民に伝えたかったことがある、というような表現で、夫は復讐とか報復を必ず拒否するだろう、夫は暴力よりも話し合いが実り多いものだと信じていた、私たちはこのような犯罪が繰り返されるのを防ぐために、私たちを憎む人々と共通の理解に達しなければなりません、と語っているのです。夫をテロによって無残に殺された人なのに、報復ではなく話し合いによって和解すべきだと主張しているのです。

 昨年ノルウェーのウトヤ島で銃の乱射によって69人が殺された痛ましい事件が起こりました。犯人のブレイビクは禁錮21年の刑となりましたが、事件の現場にいながら殺戮を免れた10代の少女がこんなことを言っているのです。「一人の男がこれほどまでの憎しみを見せたのなら、私たちはどれほど人を愛せるかを示しましょう。」殺戮の現場にいて自分が殺される恐怖を味わった少女が、憎しみに対して憎しみではなく愛によって相手の心を変えよう、と言っているのです。

 人間は崇高な精神を持つことができる存在です。世の中にはそのような精神を持った人がたくさんいることを信じたいと思います。六甲の生徒もそのような精神を持ってくれるようになれば本当にうれしいことです。