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校長先生のお話

2011年04月18日のお知らせ

言葉を十分に使って説明することの大切さ

 今日は、最初に、あるサッカーの国際試合が終わった後に行われたインタビューの質問の部分を紹介しますから、君たちならどのように答えるか、考えてみてください。

このようなインタビューです。

アナ「お疲れさまでした。アジアの強豪を抑えての今日の一戦、いかがでしたか?」
アナ「決勝点となった、あのシュートを打ったときは、どんな気持ちでしたか?」
アナ「来週に控えています、サウジアラビア戦に向けて、一言お願いします」

さて、どのように答えますか?

選手の答えを予想して私が考えたものが次のようなものです。

アナ「お疲れさまでした。アジアの強豪を抑えての今日の一戦、いかがでしたか?」
選手「そうっすね。相手は評判通りかなり強かったですが、皆が一丸となったんで勝つことができました」
アナ「決勝点となった、あのシュートを打ったときは、どんな気持ちでしたか?」
選手「抜けてくれという気持ちでいっぱいでした」
アナ「来週に控えています、サウジアラビア戦に向けて、一言お願いします」
選手「一戦一戦全力でいきますんで、サポーターの皆さんも応援、お願いします」

 君たちも似たような答えを考えたのではないでしょうか。あるいはまったく違っていたかもしれませんが、少なくとも私が考えた答えがテレビで流れても違和感は覚えないでしょう。つまり、私の考えた返答はごく普通の答え方だということです。

 しかし返答ではなく質問そのものについて考えてみると別の見方もできます。つまり、この質問は試合を見てもいない素人の私でも答えられる質問だともいえるわけです。感想や抱負を聞いているだけのものです。試合を振り返っての技術論的、作戦論的な質問ではまったくない、いわば情緒的な質問です。

 私は、選手の気持ちを聞く質問が一概に悪いとは思いませんが、聞いていて面白いと感じるのは技術論的、作戦論的質問だろうと思います。アナウンサーはもっと技術や作戦に関わる質問を入れるべきでしょう。感想や抱負を聞くだけの質問では質問のレベルが低いと言わざるを得ません。このような質問を毎回受けているとプロの選手はいい加減うんざりするでしょう。もちろんプロの選手はサービス精神も必要でしょうから、実際は皆誠実に答えていくのでしょうが、実は先ほどの質問を実際に受けた選手は中田英寿選手、ヒデでした。彼の返答はそうではありませんでした。

アナ「お疲れさまでした。アジアの強豪を抑えての今日の一戦、いかがでしたか?」
ヒデ「何がですか?」
アナ「決勝点となった、あのシュートを打ったときは、どんな気持ちでしたか?」
ヒデ「やっているときは、肉体が反応しているだけなんで、気持ちとかはとくにありませんけど……」
アナ「来週に控えています、サウジアラビア戦に向けて、一言お願いします」
ヒデ「とくに言いたいことはないです」

味も素っ気もない返事ですね。これだからヒデ選手に対するマスコミの評判は良くないのですが、彼の「いい加減にしてくれ」という気持ちは分からないでもありません。

では、どのような質問をすればよいのでしょうか。

 専修大学教授の岡田憲治さんが『言葉が足りないとサルになる』という本を書いています。題名が刺激的であったことと、私も常日頃君たちの話を聞いていて、もう一言説明がほしいと思う場面が多いので、大いに共感して買って読んでみたわけです。今の若者たちの会話の一言一言は非常に短く、なかには単語だけの場合もあります。その短い一言は案外的を射た表現であり、その新しい言葉を作りだす若者の創造力には感心させられる一方、大雑把な括りでまとめてしまうため、個々の聞き手によって解釈に随分幅が生じ、それが無用な誤解を生む一因になるのではないかと思っています。

 話を元に戻しますが、最初にあげたアナウンサーの質問は、この本の中で岡田憲治さんが紹介しているもので、岡田さんはこれに続く部分でご自分が考えた仮想質問も紹介しています。次のようなものです。

「後半35分に交代出場しましたが、一点リードしている状況で、あなたに期待された役割は何だったのですか」
「暑さで、相手チームの守備陣の足が止まっていたのに、得意の速いパス回しをしなかったのはなぜですか」
「右サイドから中に絞って得意の左足でゴールの右隅を狙うパターンはキーパーに読まれていましたが、それをやり続けた理由は何ですか」
「終了間際にキーパーと一対一になりながら自分でシュートを打たなかったのはなぜですか」
といったような質問です。

 このような内容のある質問だと、選手は恐らく積極的に答えるだろうし、答えることで選手自身も試合の振り返りができ、次につながることにもなります。このような質問を毎回受けていると選手の力は確実にアップするでしょう。素人のアナウンサーとはいえ、内容のある質問をするとプロの選手の技術を高めることになるわけです。

 ここではサッカーの試合後のインタビューを例に出しましたが、きちんとした言葉を使って内容のある話をすること、これはインタビューに限らずすべての知的作業にあてはまる大事な姿勢です。言葉を適切に選択して内容のある話をすることはとても大事です。少ない語彙、内容の乏しい表現ばかり使っているとそのレベルで終わってしまいます。言葉を使って表現力豊かに説明すれば知的能力は当然上がります。そして、ここが重要な点ですが、きちんと説明できない部分がある場合、実はその部分については話している本人も充分に理解できていないのだということです。自分で判っていないから説明もうまくできないわけです。相手に自分の意図を正しく伝える努力を通して自分の論理思考の中で曖昧であったところが明確になるようになります。

 「相手に真意が伝わるように、きちんと整理して十分に説明する(説明できる)」ということを常日頃心がけるようにしてもらいたいものです。その機会は授業だけではなく、さまざまあります。たとえば今年度から6日制になり、朝礼で生徒が前に立って話をする機会が増えることになりましたが、よい機会の一つです。話をする生徒は場当たり的な話ではなく、皆に自分の言いたいことが伝わるように前もってしっかり準備して朝礼に臨むとよいでしょう。