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校長先生のお話

2011年04月11日のお知らせ

基礎基本を大切に

 今日の話は最近読んだ本の紹介から始めたいと思います。伊東乾という指揮者の書いた『指揮者の仕事術』という本で、題名通り指揮者とはどのような仕事をする音楽家なのかを興味深い事例を紹介しながら解説しており、なかなか面白かったです。クラシック音楽が好きな生徒、指揮者の仕事に興味のある生徒には一読を薦めます。

 興味深いエピソードがいくつも紹介されているのですが、その中で今日はリハーサルと本番の違いについて書かれている部分を紹介します。著者は2人の指揮者、レナード・バーンスタインとカルロス・クライバーを取り上げています。バーンスタインは有名な指揮者ですから知っていると思いますが、知らない生徒でもクラシック音楽界を題材にして最近ヒットしたコミック「のだめカンタービレ」は知っているでしょう。準主役として登場する若手の優秀な指揮者に千秋という人物が出てくるのですが、その千秋の師匠として登場するシュトレーゼマンなる指揮者のモデルがバーンスタインらしいです。ちなみに、千秋のモデルとなったのは佐渡裕さんとのことですが、千秋と佐渡裕では随分体型が異なりますね。

 さて、このバーンスタインが1990年に「札幌芸術の森」という音楽祭で指揮をするために来日した時のことです。このときバーンスタインは、世界各地からオーディションに合格した若手演奏家を集めたオーケストラの指揮とプロのロンドン交響楽団の2つを指揮しました。若手オーケストラのときはアシスタント指揮者がついていました(この時のアシスタント指揮者は、現在大阪フィルハーモニーの常任指揮者となっている大植英次さんでした)。アシスタント指揮者が音程やリズムなど初歩的なミスを直しているうちにやがてバーンスタインが入ってきて指揮台に上がり、練習を始めます。彼は開口一番、「今やったところは、極上の東洋のじゅうたんのように、滑らかで……」というようなアドバイスをしてから振り始めたのですが、そうすると不思議なことにオーケストラの音が一変します。まさに表現通りの気品ある滑らかな演奏になったそうです。まことにマジックという他ないほどの変化を遂げたわけですが、ただ間違えてほしくないのは、伊東さんは、だからこのような詩的、感覚的な表現を使って指導することが大事であると言っているわけではないということです。彼の言いたいことは逆で、このときの劇的な効果は憧れのバーンスタインの指揮で演奏してみたいと願っている若手演奏家が集まったオーケストラだったからであって、このようなケースはむしろ例外であろうということです。実際、後日リハーサルをおこなったロンドン交響楽団に対する練習では、プロの演奏家であることを意識して楽譜に書かれていることに沿った指摘で練習を進めるオーソドックスなものだったそうです。そういえば、先ほど紹介したアマチュアオーケストラの練習でも、実はバーンスタインの登場する前に副指揮者の具体的な指摘による練習があったわけで、バーンスタインのアドバイスはその上に立ったものであったわけです。

 もう一人の指揮者カルロス・クライバーですが、彼も一種カリスマ的な指揮者で、演奏者を夢見心地にさせる演奏で知られ、生前から半ば伝説的になっていました。しかし、彼のリハーサルも本番のふわふわした指揮ぶりを考えると意外なようですが、極めてオーソドックスでかつ無駄のない手堅いもので、言葉の指示も的確だったと伊東さんは書いています。手堅いリハーサルを積み重ねて本番は皆の演奏が自由に飛翔できるように指揮棒を振った、ということなのです。

 2人の世界的な大指揮者にして、練習の時にまず押さえたことが基礎基本の確認だったということ、これは私たちが大いに参考にすべきことだと思います。基礎基本を大事にするということは、音楽に限らずどの分野においてもあてはまることだからです。

 始業式で話した通り、君たちは周りの環境も含めて大変恵まれた素質を持っています。その恵まれた素質を、自己を磨くことで大いに伸ばしてほしいと思っています。そのためにまず大事なことは、プロのオーケストラの練習と同じく基礎基本の確認です。基礎をしっかり固めた上でこそ自分の能力を伸ばすことができます。基礎が固まっていないのに次へ進むのは砂の上に建物を建てるようなもの、砂上の楼閣です。そして勉強における基礎基本は授業です。忘れ物をせず、授業にしっかり取り組み、ノートを取り、復習・予習を行う、ここをしっかり押さえることが大事です。次なる飛躍のために、ぜひ基礎基本の確立を目指してがんばってください。