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校長先生のお話

2012年04月16日のお知らせ

よい医者と六甲生

 六甲生の中で医学部を志望する生徒は毎年かなりの数になります。そこで今日はお医者さんの話をします。

 淡路島の阿那賀診療所の院長で作家活動もしている大鐘稔彦先生という方がおられます。作家としては、「孤高のメス」という題の小説を書いておられるので知っている生徒もいるでしょう。この大鐘先生が朝日新聞に「医の道 世の道 人の道」というタイトルで連載記事を書いているなかの話を紹介します。大鐘先生が近くの温泉からコールがかかって駆けつけた時に、70がらみのおばあさんが大鐘先生が診療所の医師であることを知って、話しかけてきたそうです。「わしは診療所にはもう何年も行っとらん。診療所の先生はすぐに怒るんや。なあーも悪いことしとらへんのに何で怒鳴られなあかん?アホらしいからもう行かんことにしたんよ。」

 このようなことを、当の本人ではないにせよ診療所の医者である大鐘先生が面と向かって言われたのでは気分の良かろうはずはありません。でも大鐘先生が冷静になって考えるに、診療所の医師は公務員なので患者の数が多かろうが少なかろうが報酬は一定している、この医者はたまたま虫の居所が悪くて怒鳴りつけたのかもしれないが、根本のところで患者さんの目線に立つことをせず、どこかおざなりな対応をしてしまったのではないかということでした。その結果、診てもらう必要のある人間も診療所から遠ざかることになってしまったのでしょう。

 公務員の医者がすべて悪い医者であるわけはなく、ここで紹介された医者がたまたまそういう人間だったのだと思いますが、私ならこのおばあさんと同じようにこのような医者にはかかりたくはありません。

 話は変わります。先日、六甲の卒業生でこのたび阪神間で開業したドクターから便りをもらいました。張り切って仕事をされているようですが、その葉書の中で彼は次のようなことを書いてくれました。先日、うちに来た患者さんのお母さんから聞いた話だが、息子の行っている私立高校の保護者の間で、掛りつけの医者の評判の話になったのだが、良い医者だと言われる医者がすべて六甲出身であったことが分かって、それが保護者の間でちょっとした話題になっていたということを聞いてうれしかったとのことでした。

 「良い医者だと言われる医者がすべて六甲出身である」というのは言い過ぎだと思いますが、私は六甲の教育を受けて育った六甲の卒業生を見ていると六甲出身の医者に良い医者が多いということは間違いないと思います。良い医者というのは、正しい診たてができることが第一ですが、それだけでなく不安な気持ちで来る患者の立場に立って話を聞き、患者の不安な気持ちを和らげて信頼が得られるような対応ができる人をいうでしょう。自分本位ではなく相手の気持ちを思いやることができる人間、まさにMan for Othersです。医者は高い能力が要求される職業で、誰でも医者になれるわけではありませんが、人の命にかかわる仕事だけに、まず他の人、つまり患者さんのことを第一に考える人間が携わってほしいものです。もしMan for Othersを体得した六甲生が医者になるのであればそれはそれでとてもうれしいことなので、医学部を目指す生徒はぜひがんばってください。