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校長先生のお話

2012年04月09日のお知らせ

ちょっといい話

 今朝は落語家の三遊亭鳳豊さんが「にっぽん人情小噺」という題で雑誌に連載している話のなかに、なかなかいい話があったので紹介します。

 いつも京都でボランティア活動をしている愛知県の先生の話です。この日もボランティア活動のために約束の時間に集合場所に行くと、顔なじみの幹事の先生がいて、その先生から今日は地元の女子高校生二人と組んで募金活動をしてください、と頼まれました。「分かりました」と言って募金箱を受け取ったのですが、一緒に組む予定の女子高校生が見当たらないのです。仕方なく先に決められた場所に立っていると、間もなくこちらに向かってくる二人の女子高生が見えました。でも二人の雰囲気は、ボランティア活動をする高校生というイメージとはまったくかけはなれていて、まつ毛は長く、口紅は塗っている、指の先はネイルでぎらぎらしていました。

 「おはよう、君たちはボランティアに来たの?」と聞くと、一人は挨拶を返したものの、もう一人はブスッとしていました。先生は、それでも自己紹介をした後、彼女たちにボランティアに来た理由を訊ねました。すると、さっきブスッとしていた女の子が、いかにも面倒くさそうに「先公に言われたから」と言うのです。一瞬ムッとしたのですが、自分の教え子ではないので我慢をして、もう一人の子に「先生が何て言ったの?」と聞くと、二人とも学校の成績が悪いだけでなく、態度もよくないので、本来ならこのままでは進級できないけれど、今日、ここでボランティアをやれば単位をあげると言われたので、仕方なく来たというのです。

 ボランティアと引き換えに単位をやるという先生も先生だが、いま、そんなことを言っている場合ではありません。「わかった。じゃあ、今日一日、よろしくね」と言って、先生は駅の乗降客に向かって、「お願いします!」を続けました。でも、この女生徒たちは「お願いします」のひと言も発しません。相変わらず、憮然とした顔で、通り過ぎる人々を眺めていました。まさに、時間さえ過ぎればそれで単位がもらえると思っているようでした。

 一時間もたったころ、先生がふと気づくと、その二人の目から大粒の涙が頬を伝わっているのです。目のまわりの化粧も崩れて汚くなっています。
泣きたいほどつらい仕事なのか!だったら帰れ!
先生はそう思って、彼女たちをにらみましたが、ところが、そうではなかったのです。

 きっかけは、ひとりの品のいいおばあちゃんが彼女たちの箱に一万円札を入れて、「はい、お嬢さんたち、これをお願いしますね」と言って、彼女たちに深く頭を下げたのだそうです。女子高校生たちは、この「お願いします」という言葉とそのお辞儀に胸が詰まったのです。自分ではふてくされてやっているのに、そんな自分たちにも頭を下げて「お願いします」と言ってくれたおばあさんの態度が、心の琴線に触れたのです。
これまで生きてきた十六、七年、誰からも期待されず、「冗談じゃねえや」と精いっぱい突っ張ってきた彼女たちにとって、自分に向けて言われた「お願いします」というひと言がうれしかったのです。周りが無視するこんな私でも、やることがあるんだ。期待されているんだ。そう思ったら胸が一杯になったそうです。おばあさんだけではなく、次の人も千円札を出して、「お願いします」と言って募金箱に入れてくれる。また、次の人も……。お願いしているのはこっちなのに。

 募金活動を終えて帰ろうとした先生に彼女たちは、泣きながら「先生、今度、また何か私たちにできることがあったら、言ってください」と言ったそうです。そして彼女たちは顔だけでなく心の化粧も落として先生のボランティア活動に積極的に参加し、やがて、二人とも卒業していきました。いま、一人は教師になり、一人は福祉の世界で働いているそうです。

 このような話です。読んでさわやかな気分にさせてくれる大変いい話だと思います。
世間から嫌われ、何の役にも立たないと思っていた自分が相手から感謝されまた頼られもする経験をしたことで自分の存在を肯定することができて、以後積極的に生きることができるようになったわけで、欠点はたくさんあるけれど自分の存在を肯定的に受け止めることができるようになると人間は大きく変わります。自分を肯定的に受け止めることはとても大事なことです。

この話の主人公は二人の女子高生でしょうが、もう一人の登場人物であるおばあさんにも注目してほしいと思います。このおばあさんは見た目にとらわれず、しぶしぶ立っている彼女たちの心の動きには構わず、募金活動をしていることそのことに対して二人を評価して頭を下げているのです。そして「ご苦労様です」の意味を込めて「お願いします」と言ったのでしょう。相手を信頼するおばあさんの澄んだ心が二人の突っ張った態度を柔らかくし、人生も変えたわけです。

 君たちも自分を肯定的に受け止めることのできた女子高生から学んでほしいと思うと同時に、相手を肯定的に受け止めたおばあさんの行動からも大いに学んでほしいと思います。