在校生・保護者の方へ

HOME > 在校生保護者の方へ > 校長先生のお話 > 文化祭 校長講話 「文化祭を終えて―知的感動を分かち合うこと」

校長先生のお話

文化祭 校長講話 「文化祭を終えて―知的感動を分かち合うこと」

以下は文化祭後の2021年9月27日の朝礼にて生徒に向けて話した内容です。

 

今日の朝礼では文化祭展示の感想を、「知的な感動」をテーマとして、話したいと思います。今年の文化祭展示は、文化部も同好会的な集まりも面白いものがありました。授業での取り組みや自分で課題を決めて探究した発表にも、見ごたえのあるものが多くありました。

 

◎ 高校3年生数学「エレガントな解法」展示について

高3の数学科の青木先生が企画した「エレガントな解法」は、特に興味深いものでした。生徒の切れ味の良い解答を並べて掲示していました。青木先生は「中学・高校の数学は、感動するものであり、少なくとも苦痛を与えるために発明されたものではない」「数学は無味乾燥な学問でなく汗と涙と感動の結晶である」と語ります。その先生が、「切れ味の良い解答を見つけた時の、感動する瞬間をとらえてほしい、その感動を分かち合ってほしい」と願って企画した展示です。“見事な、美しい解答に出会って、このアイディアがすごいと思ったり、この別解があるぞ! と思ったその時の知的感動の瞬間を味わって、人にシェアしてほしい、そういう学びの歓びが、大学での学問・研究活動の原点にもなる”というメッセージが込められた企画でした。

六甲生の数学に関しては、私は尊敬に近い思いで感心した出来事がありました。夏の奉仕活動の引率で阪急夙川駅から施設の最寄りのバス停「甲山」までのバス乗車20分ほどの間、2人の生徒が教科書もノートも筆記用具もなしで、数学の問題について数式を使って論じ合っていました。夏休みの朝に、奉仕作業に行くバスの中で、頭の中に同じ数式や図形を置きながら、世間話をするように数学の問題について楽しげに論じ合えるのが、日ごろ自分が教えている六甲生なのだと思って、驚いた体験でした。もしかすると皆にはそれほど不思議ではないことなのかもしれませんが、私にはそれなりの知的能力を備えた者同士でしか成り立たない光景のように思えました。別解の切れ味の良さをすぐに見抜いて感動できるというのも、ある程度理系的な知的レベルを共有していることが前提であるように思いますし、それができる恵まれた才能を持った生徒たちが、六甲には集まっていることも確かなのだと思います。

 

◎ 高校2年生の詩作展示と英作文展示について

高2の企画展示については、詩を創作したうえで「詩とは何か」についての自分の考えを加えて展示しているものが印象に残りました。見学時間が限られていてすべての作品を読み通せたわけではないのですが、詩そのものに作品としてよいものが多かっただけでなく、その後の「詩とは何か」のエッセイがよかったと思います。初めて詩を創作してみての感想や、本格的な詩論や、自作の解説になっているものや、時にはエッセイそのものが詩と対になった散文詩のように読めるものもあって、生徒たちの文学的な面での素養の高さが感じられました。

同じ高2の展示物の中では、英語でおもに人権に関わる社会の課題について、自分の意見を論じている企画の内容もよかったと思います。生徒たちの英語展示については、中1では「私のヒーロー」と題して尊敬する人について表現することから始まって、中2では「夏休みの思い出」を表現する課題に取り組み、さらに高2になると抽象的な社会問題についても論じることができるようになってゆく、その中学の初期段階からの英語の表現力にも感心しましたし、その表現力と共に社会的な意識が広がってゆく成長の過程も、英作文展示から見ることが出来たように思いました。

 

◎ 中学1年生の地学展示と前島キャンプ体験発表について

中学1年生の授業展示企画も充実したものでした。地学をテーマとした展示では、身近な出来事や授業で見聞きしたことから疑問に思ったことや関心を持ったことの中で、研究したいものを選んで探究していました。100万年前には無かった六甲山がどうして出来たのか、有馬温泉の近くには活火山がないのになぜ温泉が湧き出るのか、そこで鉄分を含む赤い温泉と透明な塩水の炭酸温泉が出るのはなぜか、東北地方の三陸沖で大型地震が多く起きるのはなぜか、30年以内に高い確率で起こると言われている南海トラフ巨大地震はどのような仕組みで発生するのか、南アメリカ大陸の東側とアフリカ大陸の西側とがなぜパズルのようにはまるのか、その二大陸はなぜもともと一つの大陸だったといえるのか、そうした純粋に知りたいと思って始めた探究活動は、やはり見るものを感動させる何かを持っているようにも思いました。

中学1年生の前島キャンプでの体験発表も心に残ったものの一つでした。展示の中では経験した出来事だけでなく、その時に感じた思いまでよく表現されていました。キャンプファイヤーでさまざまなゲームやスタンツをして盛り上がった後に、その残り火で小グループに分かれて先輩たちと静かに語り合ったミニファイヤーの時間がよかったという発表もありました。「ミニファイヤーについては、それほど期待していなかったのだが、先輩を交えて色々なことを言い合ううちに心を許せて、その場にいた友達・先輩と一つにまとまった気がした。」「残り火の周りに集まって神秘的ともいえるような、それまで感じたことのない感覚を味わった」、という感想もありました。友人や先輩とそうした時間を持つことが出来ることも、六甲の行事の良さの一つだと思います。

 

◎ 知的な探究の場・知的感動を分かち合う場として-学習センターの活用

六甲は、中一指導員と中一生徒とのつながりから始まって、クラブや委員会や行事などで先輩・後輩との人間的なつながりを深める機会があることが特徴なのですが、今回の文化祭展示を見て、生徒同士が知的な面でも、お互いにもっと刺激し合える環境があるとよいと思いました。

高3の数学の授業企画の意図ともつながることなのですが、知的感動を分かち合う習慣がもっと日常的に六甲にあればよいと思います。その機会は学校の教室内でも登校時・下校時でも可能なのですが、本格的にグループで探究し生徒同士が知的な刺激を与えあう場所として、六甲には学習センターがあります。例えば、学習センターには4名から8名ほどが利用できる2室のグループ学習室があるのですが、なぜそういうスペースを作ったのかというと、隣のレファレンスコーナーで調べた内容をもとに、生徒たちが資料を持ち寄りながら図書館内で討議する場所が必要だと思ったからです。また、グループでの発表準備のための話し合いやプレゼンのリハーサルをしたり、グループで学び合いたいという生徒が、白板も使いながら討議し合ったりする場を想定していたからです。生徒の自主的・主体的な学習活動をするための貴重な場所、どの生徒も希望すれば使える場所として創られたスペースです。実際、生徒たちのグループが自主勉強として使い、白板に数式などが並んでいた時期がありました。今は、コロナ禍の感染予防のために使用に制限がかかっているのですが、感染者数も落ち着き生徒のワクチン接種が進めば、もとのような形で使えるようにしてもよいのではないかと思っています。とりあえず、10月に入り緊急事態宣言が解除されたら、グループ学習室のうち一部屋を4人まで、感染対策はした上で貸し出すことを始められれば、と準備しています。

 

◎ 進路に繋がる日常の授業の中の知的感動について

文化祭は終わって日常に戻ったのですが、日常の授業の中でも、頭と感覚を研ぎ澄ませれば知的な感動につながるものは多くあると思います。人によって何に興味を感じるかは違うと思うのですが、過去の卒業生の中には、大学で何を学ぶかを選ぶ上で、学校での授業内容に影響を受けた人は多くいます。例えば、政治経済の授業を受けて、社会経済のしくみを専門的に知りたいと思ったり、生物で遺伝について学んで医学の観点から遺伝を研究したいと思ったりして、進路を決めた卒業生は、私が担任した生徒の中にもいました。

六甲生の能力は自分たちが思う以上に高いのではないかと私は思っています。知的な感動を分かち合う仲間と出会い、その能力をお互いに磨き伸ばし活かす場に、六甲学院がなってほしいと願っています。