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校長先生のお話

三学期終業式 校長講話

《2022年3月19日 3学期終業式 校長講話》

 

1 ロシアのウクライナ侵攻と難民への校内募金活動

21世紀になってから、それもヨーロッパで、このような侵略戦争が起こるとは思いませんでした。独立した主権国家であり、日常を平和に送っていたウクライナに、大国ロシアの戦車が国境を超えて攻撃したりミサイルで攻撃したり、3週間たった今は軍事施設だけでなく劇場に避難したり列車で移動したりしている普通の民間人に向けて攻撃が行われています。隣国へ避難している人々が300万人を超えていると言われています。

何かをしなければと思っている最中に、社会奉仕委員が主体的に動き出して募金活動をしてくれました。考査返却期間の3日間、登校時の限られた時間に東西両広場への階段前で呼びかけて、78,107円の募金が集まりました。ウクライナからの難民のための活動に生かしたいと思います。

昨年4月に大洪水の災害のあった東ティモールへの募金の時にも感じたことですが、世界の動きに応じてこうした活動がすぐに始まるのは、イエズス会教育を基本にしている六甲学院の生徒たちの特徴であり良さだと思っています。

イエズス会教育の特徴は、こうした募金活動にも表れているのですが、グローバルな視点と未来志向であることです。どんな厳しい状況になっても、自分のこと、自分の国のことだけを考えず、世界のことを考え、希望を失わずにより良い未来にするためにはどうしたらいいかを思案し行動する精神が、基本にあります。

 

2 地球儀を見るように世界を見渡す「グローバルな視点」

初期の創立者の一人にヨーロッパから日本にまで来たザビエルがいたように、イエズス会はその初めから「グローバルな視点」を持っていました。必要であればどんな場所でも行く心の自由さがあるだけではなく、地球儀を見るように世界全体を見渡して、特に痛んだところ、傷ついたところに目を向ける視点を持っています。イエズス会学校が大抵、坂の上にあるのはこの全体を見渡す―「眺望する視点」を持つ―ためだと言われることもあります。イエズス会教育の基礎にある創立者イグナチオの精神を体得する祈り方<霊操>の中には、世界を見渡してそこに暮らす人たちをできるだけ具体的に思い浮かべる訓練があります。

イエズス会学校が実際にグローバルな広がりを持っていること、全世界にあることを、ぜひ在校中に様々な機会を捉えて実感してほしいとも願っています。この春休みはチリとグァテマラの姉妹校の生徒たちと六甲の14名の中2・高1の生徒が交流することになっているのですが、そうしたことができるのも全世界に姉妹校があるからです。こうしたプログラムにはぜひ積極的に参加してください。実際にグローバルな視点を持つための助けになると思います。

 

3 振り返りから社会の変革をめざす「未来志向」

もう一つの特徴である未来志向についてなのですが、イエズス会教育はその初期から「若者の教育は、世界の変革である」という言葉がモットーの一つになっています。イエズス会学校創成期の16世紀後半に活躍した司祭ボニファシオ(Juan de Bonifacio1538-1606)の言葉です。将来の世界をより良いものに変えてゆくために教育に取り組んでいるという意識が、イエズス会教育の初めからありました。

実際に社会を変革するためには、根拠のない夢や妄想を抱くのではなく、しっかりと現実を踏まえたうえで、常により良い未来を考える必要があります。そのために、他者のために何をしてきたか、過去を振り返り、今何をしているか、現在を確かめ、これからこの社会をよりよくしてゆくために何をしてゆくか、自分に何ができるか、将来を考えます。これもイグナチオの精神を体得する祈り<霊操>に、日々の生活の中で過去、現在、未来を、つねに振り返りつつ次の行動を選択する習慣を染み込ませるための訓練があります。「瞑目」の原点にある祈りです。

今回のロシアのウクライナ侵攻にあたって、社会奉仕委員が自主的に募金活動をする動きも、グローバルな視点で世界の特に傷んでいる地域を見て、今の私たちに何ができるかを問う中で、現実的にできることを考えて選択し実現した行動です。

 

4 教皇フランシスコ来校記念表彰と教皇のメッセージ

今年度、六甲学院のインド募金・インド訪問を始めとした社会奉仕活動が、上智学院の教皇フランシスコ来校記念表彰に選ばれました。教皇とは、世界のカトリック教会のリーダーです。この受賞の意味については、今日配布する学院通信に書きましたので読んでもらえればよいと思います。現在の教皇フランシスコは、貧しく社会から排除されている人々や環境破壊に傷ついている地球を救うことを、メッセージの中心に据えています。教皇はイエズス会出身ですので、彼自身が常にグローバルな視点に立って未来志向の行動をしていることも特徴的です。

賞状には「貴殿は教皇フランシスコが2019年11月26日来日時にくださったメッセージに呼応する活動に、多大なる熱意をもって取り組んでこられました」とあります。教皇フランシスコが上智大学で、その来日時に話した講演メッセージの一部を紹介します。

教皇は講話の中で「貧しい人たちを忘れてはいけません」(ガラテア2・10)という聖書の言葉を引きながら、私たちが「現代社会において貧しい人や隅に追いやられた人とともに歩む」ようにと呼びかけています。そして学校が「単に知的教育の場であるだけでなく、よりよい社会と希望にあふれた未来を形成していくための場となるべきです」と話されます。ただ知識を身につけるだけでなく真の叡智(ソフィア=上智)を身につけ、「己の行動において、何が正義であり、人間性にかない、まっとうであり、責任あるものかに関心を持つ者」「決然と弱者を擁護する者」となるようにと励まされています。教皇はイエズス会の司祭出身ですので、こうした言葉の中にもグローバルな視点と未来志向がみられます。

この「何が正義であり人間性にかない弱者を擁護する行動になるのか」を見極めることを、「識別」といいます。そして教皇は「教員と学生が等しく思索と識別の力を深めていく環境を作り出すよう、推進していかなければなりません」とも述べています。どういう方向へと世界を変革してゆくかを識別する力を、生徒も教師も身につけ深めてゆくことが求められています。

今回の受賞は、こうした方向性をさらに今後も推し進めるようにと、励ますために与えられた賞であるということができます。

 

5 未来に向けての行動として-平和に導く政治家を選ぶための見識を持つ

もう一つ、皆の将来に向けて大切な願いを伝えたいと思います。私たち国民を戦争に巻き込むような考え方を持っている政治家を、選挙で選ばないということです。今回のことで一人の、あるいは少数の政治家の決断がどれだけの自国と他国の人々の生活を変え、不幸にしてゆくかはわかると思います。日本は選挙で政治家を選ぶことができる国です。選挙というとみんなには縁遠いように思われるかもしれませんが、昨年10月の総選挙の日までに誕生日を迎えた高校3年生は、すでに選挙に行っています。皆も高校3年生になり誕生日を迎えれば選挙で一票を投じる権利を持ちます。中学高校時代は、大人として社会に参加することにそのままつながる準備の期間です。今から卒業までの間で、学校の授業や新聞・テレビなどのメディアや読書やインターネットなどを通して、しっかりとした見識と価値基準とを身につける必要があります。この人が政治家となれば日本や世界は平和の方向に向かうのか、それとも平和を脅かす危険な方向に向かうのか、見分ける力をつけてほしいと思います。それも識別であり未来に向けての行動の一つです。